2022/06/23 22:15


2022年6月、文房しまりす堂の新商品「しまりす香り墨」が発売になります。


しまりす香り墨は、伝統工芸品の「奈良墨」です。
奈良墨工房「錦光園」の七代目・長野睦さんに製造していただきました。


写真:錦光園七代目 長野睦さん

奈良墨の歴史は古く、約1,300年前の天平時代から作られています。
錦光園さんは、江戸時代から代々墨職人の家系で、奈良でも由緒ある墨工房の「古梅園」の職長をされていた4代目長野亀吉さんが明治時代に独立創業された墨工房で、創業150年の歴史があります。

今回、錦光園さんに「しまりす香り墨」の製造を依頼させていただいたのは、錦光園さんが販売されている「香り墨Asuka」に惚れ込んだことがきっかけでした。


伎楽面の迦楼羅をモチーフにした奈良墨が、螺鈿細工のような美しい箱に入っていて、箱を開けた瞬間、驚くような墨の良い香りが立ちのぼりました。

迦楼羅の起源は、古代インドの鳥神(ガルーダ)で、酉年のわたしは、鳥つながりのご縁を感じてこの香り墨を手に取ったのです。

そして、その墨の香りの良さに魅了されました。

一方、奈良墨は古代から書のためにたくさん使われるものでしたが、毛筆から鉛筆、ペン書き、コンピューターでの文字入力と時代が変わるにつれ、その需要が激減し、奈良墨文化が危機に瀕していることを知りました。

長野さんが昨年、奈良墨文化を守るためのクラウドファンディングをされていたのです。

実用だけでなく、伝統工芸品としての「奈良墨」の魅力を、もっと多くの方に伝えたい。
もし可能ならば、文房しまりす堂オリジナルの、しまりすの奈良墨を作っていただき、販売することで微力でも貢献できたら…

昨年の11月、長野さんにご連絡させていただき、「しまりす香り墨プロジェクト」がスタートしました。

まずは、おはじきサイズの生墨に、手彫りのしまりす印を押していただきました。


石の印はサイズが小さくて彫りが浅く、なかなかうまく模様が出ません。

そこで、クッキー型を使ってみてはどうでしょうか、とご提案をしてみました。

せっかくなら、文房しまりす堂オリジナルのクッキー型で作りたい!ということで、3Dプリンターを使った植物プラスチックのクッキー型を作られている「meets cookie」さんに、クッキー型を作っていただき、錦光園さんにお渡しして墨で試していただきました。


通常、墨は木型に入れて型をとるため、長野さんはクッキー型で墨を作ったことは無かったそうですが、ひとまずやってみましょう、ということで引き受けてくださいました!


ここから、本格的に製造のスタートです。
奈良墨の製造は、原料となる煤を採取する「採煙」から始まります。


奈良墨の特徴は、その深い「漆黒」の色味です。これは、油を燃やして作る「油煙墨」ならではの色合い。菜種や胡麻など植物の油を燃やして、少しずつ少しずつ、その煤を集めていきます。


そして、煤を墨として固めるために、動物の膠を溶かして混ぜ込みます。


溶かした膠が固まらないうちに、煤と混ぜ合わせ、墨の良い香りの原料である竜脳(りゅうのう)も練り込み、生墨ができます。


固まる前の墨は、こんなに柔らかいんですね!

混ぜムラのないように、何度もこねていきます。


長野さん、素手で墨に触れているので、手が真っ黒!


職人の手、本当に美しいです。

そうしてできた生墨の塊を、かたくならないうちに型に入れていきます。


クッキー型で、きれいに模様が出ています!

ここからは、乾燥の工程。
まず乾燥の第一工程として、木灰の中に墨を埋めて、木灰に墨の水分を吸わせて仮の乾燥をさせます。


均一に乾燥させるため、灰を均等にならしています。ひとつひとつの工程も美しいです。
1日木灰の中で墨の水分を吸わせたら、墨の凸凹などを彫刻刀で取り除く、「バリ取り」の工程へ。


道具も美しい!
バリ取りが終わったら、木灰に戻して2〜4週間乾燥させます。


日の差し込む工房の中で、じっくりと木灰による乾燥が進みます。

そして仮乾燥が終わったら木灰から取り出し、今度は本乾燥へ。


ここから様子を見ながら約3ヶ月間乾燥させます。


乾燥させると、型抜きしたときのサイズから最終的に3割ほど縮むそうです。結構縮みますね。

最後に、表面に磨きをかけ、美しい奈良墨の完成です!


長野さんから、たくさんの「しまりす香り墨」が届き、蓋を開けた瞬間、一気に意識が冴えるような濃厚な墨の香り。感無量です…

こうして約8ヶ月の「しまりす香り墨プロジェクト」から、文房しまりす堂の「しまりす香り墨」が誕生しました!


2022年6月27日から上野駅エキュートで開催されるイベント「リスの雑貨屋さん」で先行販売をスタートし、同時にオンラインショップでも予約受付をスタートします。(7月上旬以降お届け予定)

錦光園の長野さん、本当にありがとうございます。
奈良墨文化をこれからも応援していきます!